トリクロール酢酸(トリクロロ酢酸)手術(TCA手術)とは

トリクロール酢酸という酸で鼻の粘膜を焼いてアレルギーに抵抗性のある鼻粘膜に変性させる治療です。

アレルギー性鼻炎(花粉症を含む)は鼻の中の粘膜に花粉やハウスダストなどの抗原(アレルギーの原因となる物質)が付着することによりアレルギー反応を起こし、「くしゃみ」、「鼻水」、「鼻づまり」などの症状を起こします。鼻の中で主にアレルギー反応を起こすのは下鼻甲介といわれる粘膜です。トリクロール酢酸手術は下鼻甲介粘膜にトリクロール酢酸を塗布しアレルギー反応を起こしにくい粘膜に変性縮小させます。粘膜が変性縮小することにより鼻づまり、くしゃみ、鼻水が軽減します。トリクロール酢酸は化学構造式CCl3COOHで結晶状の物質でその水溶液は強い酸性を示します。花粉症を含むアレルギー性鼻炎の外科治療は下鼻甲介という粘膜を焼灼(焼いて変性させること)します。この焼灼に用いる方法に①レーザー、②アルゴンプラズマ、③トリクロール酢酸があります。トリクロール酢酸手術(TCA手術)ではトリクロール酢酸を用いて下鼻甲介粘膜を焼灼する手術です。レーザー、アルゴンプラズマ、トリクロール酢酸の違いについてはアレルギー性鼻炎の手術方法による違いに詳しく解説してあります。海外では1838年から鼻手術への応用が行われており、有名な手術ではありませんが安全性が高い手術です。なお一般的にはトリクロロ酢酸と呼ばれていますが、耳鼻科では慣習的にトリクロール酢酸と呼ばれることが多いです。

当院で行っている手術

当院で行っているトリクロール酢酸手術は50w/v%の水溶液を用いています。一般によく用いられていると思われる濃度は80w/v%だと思いますが、80w/v%では術後の鼻づまりや鼻水が長引きつらい期間が長く(2週間程度)なります。50w/v%濃度で行った場合、通常は3日、粘膜の弱い人でも7~10日程度の軽い鼻づまりや鼻水で済みます。また、重症の人や通年性の患者さんに対して本当に強い効果を期待して行うのであれば、アルゴンプラズマ手術のほうが効果が高いので術後の鼻づまりや鼻水がつらくなりますがアルゴンプラズマ手術をお勧めします。2011年から当院ではトリクロール酢酸手術を行っており、手術件数も390件を超えています。

  • 術後3日程度は鼻水や鼻詰まりがありますが、通常軽度です。
  • 効果の持続は個人差がありますが3~6か月程度です。花粉症に対して行う場合は12~2月中旬くらいがベストです。
  • 手術後も局所ステロイドスプレーや抗アレルギー薬をお使いいただいたほうが快適に過ごせます。

手術の施行スケジュール

当院で行う場合の手術スケジュールです。

初診時

鼻腔内の観察、アレルギー検査などを行います。全く初めての患者さんや受診時鼻の状態が良くない患者さんは次回以降の手術になりますが、以前に当院や他の耳鼻科で正確な診断ができていて、鼻内の状態が良い場合は当日に手術を行うこともあります。他の耳鼻科や内科で検査など受けたことがなくただ症状だけで花粉症やアレルギー性鼻炎と診断されている場合は手術前に検査をお受けいただきます。

手術日

  • 全身状態、鼻の状態の確認。
  • 痛み止めの薬がついた綿を鼻の中に入れます。15分程度入れたままで待ちます。場合によって綿の入れ替えをします。
  • 痛み止めの薬のついた綿を鼻内から取り出します。
  • 痛み止めが効いていることを確認してから綿棒でトリクロール酢酸を塗布します。(2~3分で終ります)。
  • 出血や気分不良などがないことを確認。
  • 帰宅。

術後1週間

手術後1週間で再診していただきます。鼻内の状態を確認して調子が良ければ手術に伴う通院は1回で終了です。鼻内の状態が良くなければさらに1~2週間後の再診が必要なことがあります。

Q&A

完全に治る方法ですか?

花粉症を根本的に治癒させる方法ではありません。あくまでも対症療法の一つです。でも薬を使っても花粉症がつらい方には適した方法です。

どんな人が適応になりますか?

  • 薬を使っていても鼻づまりや鼻水の症状が強い人:特に鼻詰まりが強い人が効果的です。下にも書いていますが手術後も局所ステロイドスプレーや内服薬、花粉症の予防策をとったほうが快適に過ごせます。
  • アレルギーの薬を飲むと眠くなる人、車の運転などで効きの良い薬が飲めない人、受験生:手術後に局所ステロイドスプレーを併用すると快適に過ごせます。

子供でもできますか?

聞き分けの良い子でしたら6歳くらいから可能です。鼻の中に麻酔薬のついた綿を入れますので違和感があります。その違和感が我慢できるお子さんでしたら可能です。

手術後薬を飲まなくても平気ですか?

花粉症を根本的に治す治療ではないため、状況にもよりますが薬は併用したほうが快適に過ごせます。

効果持続が短いようですが繰り返して行うことは可能ですか?

当院で行っているトロクロール酢酸手術は持続が通常3~6か月のため1シーズンしか効果がないと思われます。繰り返して行うことは可能です。

費用の目安はどれくらいですか?

  • 初診時:4000円~12000円程度(12000円は初診時に検査と手術を行った場合です)
  • 手術時:7000円程度
  • 再診時:600円~2500円程度
  • そのほか調剤薬局での薬代がかかります。

生命保険の適応はありますか?

生命保険の契約によります。保険会社に手術名「下鼻甲介粘膜焼灼術」で保険金が出るのか確認ください。保険の診断書は1~2週間程度のお時間と、費用(7000円+消費税)がかかります。